山村浩二「田舎医者」

いやはや、素晴らしい本を手に入れました。アート・アニメーション監督、山村浩二さんの「田舎医者」です。これは、監督が撮ったアニメーション、フランツ・カフカ原作「田舎医者」の絵本版です。僕はまだ、アニメーションのほうはチェックできていないのですが、これを電車の中で読んで、感激しました。絶対にDVDも買うでしょう。
監督の解釈なりデフォルメに対して云々いうのはやめとくとして、ひとつ言えることは、監督は、今までのカフカ研究の成果をきちんと表現されている、ということです。例えば、精神分析学のフロイト派的解釈の中に、「田舎医者=患者の少年」である、という解釈があります(詳しくは、三瓶憲彦『カフカ 罪と罰』など)。この解釈の仕方は、「田舎医者」における基本的解釈のひとつですが、監督の「田舎医者」においても、田舎医者と少年の顔が酷似している。カフカ文学において重要な衣服(「田舎医者」においては毛皮)に関連する描写も丁寧です。不満を言えば、ローザ(薔薇)色の傷の描写が、この絵本を見た限りでは少し弱いと思われますが、トータルで言えば、かなり濃密な作品になっていると言うことができるでしょう。
カフカ好きの人、何らかの形でカフカにに携わっている人に限らず、その財布に厚みがあり、そしてその紐が緩んでいる人たちは絶対に買いましょう。僕もグロテスクな友人(♀)にプレゼントしたいと思います。
最後に付け加えるとすると、この絵本に載っている抄訳は原文にとても近いです。池内紀さんは意訳がうまいので、カフカをスッと読めるように訳されていますが、違和感もカフカの味のひとつですから、そういう部分を知りたい方もぜひ、お読み下さい。とにかくお勧めです。

カフカ田舎医者

カフカ田舎医者